では、どのようには話せば「ネティブスピーカーのよう」と言えるか?
ネイティブスピーカーはある言語の有能なスピーカー(competent speaker )であって, その言語を慣用に則って(idiomatically)使う人である(Paikeday、1990)。これは,言語運用に関する有能さや熟達度にもとづいて,ある人を「ネイティブか否か」判断するといったものである。(田中,2013)
すなわち、音声、単語、文法を習得すれば、日本語を日本人のように話せるか。答えはもとろんできない。音声、単語、文法の知識があれば、せいぜい正しい文を作るだけである。英語の例を挙げると、「The brothers of my parents were four」という英文は文法的には問題がないが、奇妙で、不自然の文である。それに対して、「I had four uncles」の方がより自然である。文法の規則の適応範囲の制限、慣用句、熟語のような中間的な存在などの原因で、文法能力だけでは自然な日本語を話せることはできない。
他にはどのような能力が必要であるのか?
一文を作る能力があっても、それを上手くつなげて会話にする能力がなければならない。例えば、A:雨のせいでどうなったの?B:作物がやられちゃったんだ。AとBの文は、それぞれ別に見れば、正しい文だが、対話としてみると不自然である。つまり、日本人のように自然な日本語を話すには、文を繋げる能力も必要である。
「社会言語能力」は、社会的に「適切な」言語を使う能力である。以下の要素と関わっている。
①参加者
会話に参加している人は参加者である。参加者たちはどの程度の親しい関係であるか、社会的な地位の点でどの程度の差があるかによって、言葉は大きく変わっていく。たとえば、上司に話すときに敬語を使うこと。
②状況・場面
状況によって、言葉はかわっていく。例えば、結婚式の披露宴でするスピーチは、会社帰りの居酒屋でする会話はかなり違っていると言うことである。また、場面によって、話す言葉も変わっていく。例えば、普段知り合いと会うときに、時間によって、「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」と使い分けだが、バイト先である場合、時間にかかわらず「おはようございます」と挨拶するケースがある。
③トピック
参加者、状況が同じでも、何かについて話すことによって、話し方が変わっていく。例えば、アメリカ人と結婚しアメリカに永住している日本人は普段はいつも英語で話しているだが、トピックが日本のことになると、英語ではなく、日本語になってしまう場合がある。
④機能
言葉の機能には、大きく分けて客観的な情報を伝えること、そして主観的、心理的名情報を伝えることの2つの機能があると言える。発話がこのうちの主にどちらの機能を持つかによって、話し方は影響を受けると言うことである。例えば、天気予報は客観的な情報を伝えるという機能を表しているのに対し、「新聞を取ってください」という発話は命令の機能を表している。そのほかには、「ありがとう」という感謝の機能、「窓を開けてください」という要請の機能、「ごめんなさい」という謝罪の機能などがある。
⑤文化
文化によって、言葉の意味はかわるものである。日本語をネイティブスピーカーのように話したければ、日本の文化と自分の国の文化を理解しないといけないである。例えば、中国では、「ご飯を食べましたか」は挨拶の意味を表しているのに対して、中国以外の国人に対して、これはただの質問である。また、例えばパーティの誘いについての断りに対して、日本人は「今日はちょっと...」や、「考えさせてください」などのような遠回しの断り方をするが、中国人は[弁明]や[提案]をする傾向があるそうだ。そのような文化的な違いが知らなければ、ネイティブスピーカーのような日本語を話すのは難しいだろう。
以上のように、わたくしたちが理解した範囲では、ネイティブスピーカーのような日本語を話すには、文法的な知識(音声、文法、語彙)を把握したうえで、社会的な要素(参加者、状況、機能、トピックなど)、社会文化的な違いを理解した上、初めてネイティブスピーカーのように話すことができる可能性がある。あなたは全部できましたか?
参考文献:
東照二(1997)『社会言語学入門』研究者出版社
白井恭弘(2008)『外国語学習の科学――第二言語習得論とは何か』岩波書店
田中里奈(2013)「日本語教育における『ネイティブ』/『ノンネイティブ』概念
言語学研究および言語教育における関連文献のレビューから」、言語文化教育研究、11